放課後の海

確かに、魁人と渚が通う波沢高校は海のすぐ近くだ。学校から歩いて十分で海水浴のビーチに着くし、何より通学路沿いはずっと浜辺が見えているのだから。
「だからって放課後に海に行かなくてもいいだろ、渚」
「いいじゃん。だって海が見たいんだもん!」
「いつでも見れんじゃん、通学路なんだからさ……」
 いつもの通学路。魁人はカゴに二人分のカバンが積まれた自転車を押しながら、堤防の上でバランスを取りポニーテイルを揺らして歩く渚の後ろをついてきていた。同じクラスの幼馴染と放課後に海へ行くのは、少々かったるい。
「てか、何で俺? お前、友達結構いるじゃん。わざわざ俺じゃなくて良くない?」
「そ、誰でもよかったから、魁人にしたの。どうせ暇なんでしょ?」
「まぁ、暇だけどさ……あーあ、ゲームしてぇ」
「ゲームもいいけど、外行こうよ? ほら、着いた」
 渚が堤防の切れ目からぴょん、と降りた。そのコンクリートの入り口を通って、渚は砂浜に出た。自転車は入れないので、魁人は入り口に自転車を停めて渚に続いた。海開き前なのと夕方なのとで人影はない。だが気温は十分あるので潮風が心地いい。少し傾いてきた夕日も波に反射して綺麗だ。
「いやっほぉー、いい波だね~」
 渚は言うなり、制服のスカートをまくり、スニーカーとハイソックスも脱いで波打ち際に走って行った。
「転ぶなよー、びしょ濡れても知らねーぞ」
 魁人は波打ち際に近づきながら叫んだが、足を波に浸して「はー、気持ちー!」とやっている渚には届かなかった。
「……よくやるよ、全く」
 はしゃぐ渚を見て呟き、適当な場所に腰かける。潮風が魁人の少し伸びてきた短髪をわしゃわしゃと撫でた。風に吹かれながら、夕焼けを背景に女子がいる海辺を眺めるのも悪くない。
「ほら! 魁人もこっち来なよ!」
「へ? あ、おい! ちょっと!」
 波と戯れていた渚がこっちへ来たかと思うと、急に魁人の腕を取って再び波打ち際へ走り出した。勢い余って魁人はすっ転び、海水に尻もちをついた。
「うわ、魁人びっしょびしょ!」
「引っ張ったのはお前じゃん! このっ……!」
 仕返しとばかりに、渚に水をかけてやる。
「ひゃっ、ちょっと!」
 仲良く水の掛け合いをする二人の笑顔は、水平線をオレンジに染める夕日に照らされていた。