爽やかと甘酸っぱさと

「やっぱりぶどうは美味しい」
 そう言いながら目の前の黒髪ツインテールの少女、三嶋秋名は木から次々と黄緑色のぶどうをもぎ取っては皮ごと口に運んでいく。
山梨県名産のぶどう。俺、工藤蜂谷と秋名は朝一番の特急あずさと普通電車を乗り継いであるぶどう園にぶどう狩りに来ていた。
と、そんな事を考えている間にも、ほぼ小学生のような小さい身体のどこにそんなにぶどうが入るのか聞きたいくらいのスピードでぶどうが彼女のお腹へと消えていっていた。
 そう、秋名はぶどうが本気で好きだ。おそらく何よりも。
「秋名って本当にぶどう好きだよな」
「だって美味しいから」
 秋名はそう言いながら少しほほえむと、また一房手に取った。
 秋名はそこから実を一つもぎ取ると自分の口に運ばずに俺をじっと見つめた。
「じーーーっ」
 秋名が俺を見つめる。しかも、それを声に出しながら。
「な、なんだよ」
「蜂谷くん、ぶどう食べてない」
「あー」
 そう、
「いやー、そのー」
俺はぶどうが嫌いだった。
「蜂谷くん、ぶどう、嫌い?」
 秋名が首をひねりながら俺を見た。表情こそ変わっていないがこういう時が一番怖いのだ。
「いや、なんというかその甘酸っぱいっていうか? そういうの苦手でさ」
 あははー、と俺は適当に笑った。
「じゃあこれなら大丈夫」
「へ?」
 そう言うと秋名はそのまま手に持っていた黄緑の実を俺に突き出した。
「シャインマスカット。皮ごと食べれてすっきりした甘さ。巨峰とかより酸っぱさも低いから」
「は、はぁ……」
「ん」
 秋名はさっきよりも高く腕を突き出す。
「いやー、でも」
「食べてみて」
 食べないと彼女も引かないらしい。
俺は意を決してその実を手に取ると口に入れた。
「ん?」
 シャキッとした皮にさっぱりした甘さが口の中に溢れる。果汁がそれと同時に一気にあふれ出る。普通のぶどうとは明らかに違っていた。
「美味しい?」
 秋名がどこか自信ありげに俺を下から見上げる。
 俺はその言葉にうなずくとシャインマスカットの実を飲み込んだ。
「これ、他のぶどうと違って美味しいな!」
 俺の言葉に秋名は頷くと彼女はさらに実をもいで俺に渡してきた。
 俺はそれを手に取るとまた食べる。
 まるで餌づけのように俺の苦手は克服されていった。