二人のクジと運

「兄さん、一緒に初詣に行きませんか?」
 信治が今年初めて耳にした冬華の声だ。冬華とは信治の二つ下の妹だ。学校では容姿端麗で成績も優秀な文句のつけようのない美少女だ。家では家事全般を一人でこなし、信治のことも弟のように世話を焼いている。今もこうして信治の部屋まで起こしに来てくれるのはありがたいのだが入る前には一言声をかけてほしいと思うこともある。
冬華は白いコートを羽織り、外へと向かう準備をしていた。
……外は晴れているがまだ寒そうだし、まだ眠っていたいという欲求の方が勝った。
「なぁ、友達とか両親と一緒に行ったらどうなんだ?」
 冬華の誘いを拒否しようとする信治に冬華は頬を膨らませながら、
「もうっ、そんなこと言ってないで早く準備してくださいよ。それに友達は実家に帰ってますし、両親は今日、仕事に出ていますよ」
 なら仕方ないか。面倒くさい参拝に行くとしよう。
 信治はそう生意気なことを言いながらベッドから起き上がり服を脱ぎだした。
「なっ、なに服なんか脱いでるんですか!」
「着替えるんだよ。初詣にパジャマ姿でなんていけないだろう?」
 冬華はそっぽを向きながら「脱ぐなら脱ぐって言ってくださいよ」と言いながら部屋を出て行く。
 いや、冬華も部屋に入るときは入るって言ってくれよ……。

「それにしても凄い人混みだな……」
「そ、そうですね」
 信治達の近所にある神社、石段の上は沢山の人が列を作っていた。周りには綿菓子や飴などの出店も開いており夏祭りを思い出す。
「兄さん! おみくじがありますよ! 一緒にやりませんか?」
「待ってくれよ、冬華」
 家や学校ではしっかりとしているイメージがあるので、楽しそうにしている冬華を見るとなんとなくほっとする。
「おみくじ二つお願いします」
「お、冬華ちゃんじゃないか。……ほぅ、今日は彼氏と一緒に来たという訳か」
 おみくじを販売するおじさんが笑いながら言う。冬華は近所でも人柄が良く知名度も高いが兄である信治はその限りではないだろう。だからおじさんも信治のことは知らないのだ。
「か、彼氏⁉ そんなわけあるはずないじゃないですか! 私の兄ですって!」
 ひどく同様している。しかし、そこまで否定されると逆に傷つくな……。
「そうなの? おじさんてっきり……」
 おじさんははげた頭をかきながら頭を下げる。しかし、いやらしい笑みは崩れない。
「冬華の兄で信治と申します」
 信治はぺこりと頭を下げる。おじさんも頭を下げた。いいおじさんだ。
「さ、早くおみくじをひきましょう」
 冬華と信治は箱の中から一枚ずつ引いた。
 ……俺は末吉か。何もかも平凡だな。
「やった! 見てください兄さん! 私大吉ですよ!」
 冬華は赤い字で大吉と書かれた紙を見せる。特に恋愛が良かったようだ。
「これで、冬華も彼氏が出来る訳か……」
「何言ってるんです? 私、好きな人はいますけど彼氏は作る気はありませんよ?」
 それはいったいどういう意味だ?
「ま、鈍感な兄さんには解らないかもしれませんね」
 冬華は小悪魔っぽい笑みを浮かべながら近くの木におみくじをつるしにいった。
「ま、頑張りなよ。お兄さん!」
 相変わらずおじさんはいやらしい笑みを浮かべていた。