淡いオレンジ

幼い頃から結人は夕暮れ時が好きだった。
 
「結人。帰ろうぜ…、って、また校庭を見てるし」
  結人の幼馴染カナトが椚木高校二年三組の教室、教卓側入り口から大きな棚が置いてある後ろ側の一番端の窓際席を見つめた。
  その席から夕暮れと校庭がよく見渡せるため結人の特等席だった。
 「カナトも一緒に夕暮れを見ようじゃないか。心が落ち着くかもよ」
  結人のいる場所に近づいてくるカナトをニコニコと見つめながら結人は楽しげに言った。
 「落ち着くのか。なんで結人は夕暮れ好きなの?」
  カナトは結人が座る右斜め前の席に座って質問をした。
 「覚えてないのかい? カナト」
  結人はカナトの質問に悲しげな顔をしてから告げた。
 「カナトが言ってくれたのだよ。幼い頃にね?」

  十年前の出来事。
  公園には黒いランドセルを背負った太めの少年が、茶色のランドセルを背負った色白の大きな赤い瞳と美しい銀髪が良く似合う兎のような少年を手で押して転ばせる。
 「気持ち悪いからあっちに行けよ! この兎男!」
 「ごめ、んなさい」
  太めの少年に見下された兎少年は目に涙を溜めながら謝った。
 「おいっ! 俺の大事な幼馴染をいじめるな!」
  突然現れた紺色のランドセルを背負った金髪に青い瞳のハーフ少年が太めの少年を右真横から蹴り飛ばす。太めの少年は左の方に飛ばされ転んでしまう。
 「てめっー! よくも! 勝負しろカナト!」
  太めの少年はイライラしながらカナトを指さして言った。
 「いいぜっ! かかってこい! 結人の敵をとってやる」
  カナトは太めの少年を挑発するように微笑んだ。二人の殴る蹴るのケンカが始まった。
 「だめ、けんか、よくないよ。カナトくん!」
  二人のケンカを泣きながら見ていた結人は小さな声で言った。
  
  青い空が夕暮れ時のオレンジの空になっていた。
  ケンカに勝利したカナトは公園の左端にあるベンチに結人に手当てをしてもらっていた。
  「つぅ~! まさかこんなに擦り傷ができると思わなかった」
   カナトは痛そうにしながらも結人を心配させないように、ニコニコと結人を見て微笑んだ。結人は涙目でカナトを見つめて言った。
  「カナトは気持ち悪いと思わないの? 僕の髪と目」
   結人は兎みたいだと言われる自分の外見が大嫌いで、気持ち悪いと思っている。
   カナトもそう思っているのではないかと、結人は不安に思っていた。
   だが、カナトの言葉は結人の予想とは違っていた。
  「なんで? 結人の髪と目キラキラしていて綺麗だよ。俺はすごく好き」
   カナトは夕暮れを見てからニコリと笑って言った。
  「この時間になるとさ、結人の綺麗な髪がオレンジ色に染まってもっと輝くんだ。だから、結人は自分を恥じなくていいんだからな?」
   そう言って微笑んだカナトは、淡く綺麗なオレンジ色に染まって美しかった。
   この日のことが忘れられない大切な思い出になった結人は、夕暮れ時が好きになったのだった。

  「うわ、懐かしいな。だから毎日夕暮れ時までここにいるんだな?」
   結人の話を聞いたカナトはしみじみしながら微笑んで言った。
  「そうですね、だからここにいるんです。どうです? 僕の髪は美しいですか?」
   結人は淡いオレンジ色に染まった自分の銀髪を指さして微笑む。
  「あぁ。とても綺麗で美しい」 
   カナトは結人の綺麗な髪を優しく撫で、微笑んで言った。結人は嬉しくなって、微笑んで言った。
  「ありがとう、カナト」 
   教室の窓から入る夕暮れの淡いオレンジ色が、微笑みあう幸せそうな二人を優しく包み込んだ。
  

   おわり