人気の彼女の裏の顔

「何やってんだ?」
 放課後、忘れ物を取りに教室に入った俺は、窓際の席に人影を見つけ、誰もいないと思っていたので若干驚きながらその人影へ声を掛けた。
「ん? ええと、君は確か同じクラスの……」
「神代京だ。で、お前は豊国千花だろ」
 窓の外を見ていた影が振り返ると、逆光ではあるが知っている女生徒だった。
「へえ。私のこと知ってるんだ」
「同じクラスだしな。それに、お前はクラスどころか学校内でも有名だろ」
 そう答え、視線を外す。実際、豊国はクラスどころか学内の人気女子の上位に入るほどの人気を持っている。男子からの評価は性格も良し、成績も優秀といった存在だ。生まれ持った目つきの悪さで陰口言われてる成績不良児の俺とは真逆にいる人種だ。
 しかし不運だ。さっきも言った通り、豊国は俺と逆の人間だ。ファンも多い。下手に話していると、ファンだという生徒からいらないちょっかいを受ける原因になりかねない。そんな面倒ごとを避けるためにさっさと取るもん取って帰ろう。
 頭の中でそう決め、行動を開始する。教室の後ろの扉に近い位置の自分の席に移動する。机の中にあるものを……って、無い? あれえ、と首を傾げながら机の中を覗き込む。
「神代君。探してるのはこれ?」
 豊国の声に顔を上げると、何かをこっちに見せるように持っているのが見えた。まさかと思いながら、豊国の方を睨む。
「意外だね。洋菓子のレシピブックを自作してるなんて」
「っ!? 返せ!」
 やはり、豊国が持っていたのは俺の忘れ物である自作のレシピブックだった。周囲に知られないようにしていた物だから、それを読まれていたことへの恥ずかしさを感じながら、叫ぶ。
「どうしよっかなあ?」
 焦る俺を見ながら、豊国は楽しそうな笑みを浮かべる。
「君の様子を見る限り、これは知られたくなかったみたいだね。まあ、周囲の君へのイメージとかけ離れてるもんね。ばらされたくないよね? ね?」
「そういうお前もかなりかけ離れてんだろ!」
 何が性格が良いだ。思いっきり嗜虐的じゃねえか!
「まあね。普段はそういうキャラを作ってるし」
 暴露された。否定のひの字すらしてこない。
「……はあ」
 堂々と暴露されたせいで怒りが吹き飛んだので、疲労を吐き出すようにため息を吐く。そもそも女子相手に手を出せるほど肝も据わってないから、どこまで行っても言葉以外の手段はない。
「人気の女子が実はどSとか、知ったらみんな驚くだろ。いや、一部の野郎は大喜びか?」
 そういう嗜好のやつもいるらしいな。
「うーん。そういう人は苦手かな」
 豊国は不評そうな顔をしていた。いやいや、何の話だよこれ。脱線してないか?
「とりあえず、レシピブック返してくれ」
「やだ」
「断るな。お前の本性をクラスにばらすぞ」
「えー。クラスで孤立してる君の言葉に耳を傾ける人なんているの?」
 ぐふぉ! 確かに孤立してるけどさ! ストレートに言うなよ! ダメージを受けた俺を見て、豊国はまた笑った。
「あははっ! 怖そうな見た目なのにメンタル弱いなんて、やっぱり面白いね、神代君は」
「やっぱりって何だよ」
「このクラスになったときから、君はいじり甲斐がありそうだなあって思ってたんだよ。思ったとおりだね」
 なんかお気に召されたようだ。しかも前から目を付けられていたとは、この本性を知らなきゃ純粋に喜んでいたかもしれない。
「あははっ……。あー、楽しかった。良いよ。また話し相手になってくれるなら返してあげるよ」
 絶対それは、『話し相手』と書いて『おもちゃ』と呼ぶものだろ。不運にも俺はアイドルの裏の顔を知り、気に入られてしまった。