雨降りと二人

外は、メグの憂鬱な気分を表すかのように、雨が降り続く。
 放課後の第一高校二年一組の教室に居残ったのは、メグとアオイだけだった。特にこれといった会話もない。メグは窓の淵に腰かけ、その雨で滲んだ景色をぼんやりと眺めている。アオイは廊下側の自分の席で、ただじっとスマホの画面に視線を送り続けた。本当なら一緒に帰るはずの二人、それが今日のところは違った。
 きっかけは些細なこと。昨日の帰り、一緒に寄り道して遊ぼうという話をしていた。けど、メグの方が、委員会の集まりだった。アオイは『すっぽかせば?』と、冗談半分に言ったが、『委員会はどうしても抜け出せない』と、メグが真面目に受け答えた。それでアオイが(冗談の分からないやつ)と駄々をこね、仲たがいになってしまったのだ。そこから丸一日、口をきいてない。LINEもしてない。
「……」
「……」
 二人の間を線引きするかのように、雨は次第に大きな音を立てていく。時間が経てば、いつも通りに戻ると思っていた。けれど、雨音が響きを増す度に教室空気も重くなって、気まずくなっていく。
「ぴゃ⁉」
沈黙を破るようにメグが変な声を上げた。アオイもびっくりしてそっちを見た。どうやらメグの座っていた辺りが雨漏りしたらしい。滴が当たって首筋を抑えているメグを確認すると、アオイはゆっくりと視線を自分の手元に戻した。
 雨漏りが嫌だったのだろう。メグは廊下側に移動し、アオイの席からひとつ後ろに飛ばした席に座った。
「ねぇ、っ……」
 再び沈黙を破ろうと、先にメグが口を開こうとした。委員会をすっぽかせない真面目な性格のメグだ、自分から空気を変えようとしたのだ。しかしそれは、声をかけるに満たない吐息となってメグの唇から漏れただけで終わった。アオイにも聞こえたのか、一瞬肩をぴくりとさせたが、それ以上は何もなかった。
「……はぁ、」
 しょうがない、今日の仲直りはもう諦めよう。そう言いたげにメグはため息をひとつして、カバンを取ろうと動いた。
「……――ね」
今度はアオイの方がこちらを見た。さっきほどではないが、小さめの声にメグは振り向く。
「……!」
「昨日はね、その……すごく楽しみだったんだ。時間が合えばいつでも遊べるのに、ね。でも、昨日はその、すごくテンション上がってて……だから、その……」
「私こそ、ごめんね」
 しどろもどろの言葉に、メグの優しい返事。アオイが少し目を見開いた。
「私こそ、冗談なのにムキになって……ごめんね?」
 泣きそうに笑うメグに、アオイは強く首を振った。
 大粒の雨を降らせていた分厚い雲は、いつの間にかほどけてなくなっていた。今はほんのりオレンジ色の空に美しい陽が射していた。