彼らの進む道

「真治と敦は、進路ってもう決めたのか?」
 昼休み、真治と敦、吉雄の、この学校では(悪名として)有名な三人が窓際の席で、くだらない会話をしながら昼食を食べていると、髪を茶髪に染めてる少年―吉雄が切り出した。
「進路かー。 やっぱり進学かな? 大学行って、可愛い彼女作りたいよな!」
「敦らしいな。 真治は?」
「俺は、就職だ」
「どういうジャンルの会社?」
「文具とか作ってる会社、だったな」
「マジで? なら、新作のペンとかくれる?」
「たぶん、大丈夫だろ」
 制服を着崩した少年―敦が眼を輝かせながら、パンくずをぽろぽろとこぼしながら、口を開く。 机の上に落ちたパンくずを見て、(二人と比べればまともな服装の)真治はわずかに眉をひそめ、箸をとめた。
「おっと、わるい。 吉雄は決めたのか?」
「いやぁ、参ったことに、まだなんだよ」
「もうすぐ、進路希望の紙の回収日だろ。 間に合うのか?」
 敦が気づき、パンくずを拾ったため、表情が和らいだ真治は驚きを顔に浮かべる。 そして、心配げに吉雄の方を見た。
「どうにかなるっしょ」
 軽く言う吉雄に、真治と敦は、相変わらずだなと、苦笑を浮かべる。
「吉雄、楽観主義で、どうこうなる問題とは思えないぞ?」
「それは、分かってはいるんだけどなぁ。 いまだに、やりたい事が思い浮かばないんだよ」
「いつも悪巧みは、ほいほいと思いつくのにな」
 呆れを浮かべる真治。 頭をかいて、困った表情を浮かべる吉雄。 吉雄にからかいの言葉をぶつける敦。
「まったく、お前のイタズラに巻き込まれるのは、もう勘弁だ」
「でも、面白いだろ?」
「面白いよな! 真治もなんだかんだで、楽しんでたろ?」
「…まあ、そう、だな」
「やっぱりな!」
 渋々といった様子で認める真治。 真治の返事に、楽しげに笑みを浮かべる敦と吉雄。
「素直じゃないんだから、しーんじクーン?」
「やめろっ! 肩に手を回すな、変なしゃべり方するな。 気色悪い」
 肩にまわされた手を払いのけ、嫌そうな顔を浮かべた真治。 払いのけられた手をぷらぷらと振りながら、吉雄は敦と顔を見合わせ、同時に肩をすくめる。
「何だよ、そのシンクロは?」
「いや? 別に?」
「別にぃ?」
「その態度、ムカつくんだが?」
「おぉっと? 真治クンがお怒りだぜ?」
「おお、それは怖い」
 おちょくる態度で話す二人に、
「よし分かった。 お前ら表出ろ!」
 真治の怒りが爆発した。
 机に手を叩きつけ、立ち上がって叫ぶ真治。
「ちょっ、悪かったって、ほ、ほんの冗談だってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「まだ食べ終わってないぃ! か、堪忍してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
 真治によって襟首をつかまれ、連れて行かれる敦と吉雄。 遠ざかっていく二人の悲鳴を聞きながら、クラスメイトたちは、いつものことだ、とすぐにそれぞれの談笑へと戻っていった。 どうやら、このクラスにとっては、先ほどのようなことは日常茶飯事のようだ。

 真治と彼に引きずられた二人は、教室から少し行ったところの階段のところにいた。
「まったくさぁ。 制服破けちゃったらどうすんだよ。 真治」
「着崩してるやつが何を言ってる?」
 冷ややかな眼を向けられ、敦は怯む。
「馬鹿にしたのは悪かったよ。 たださ、冗談なんだから、少しは多めに見てくれよ」
「まあ、確かに……カッとなりすぎた気はする」
 吉雄の言葉に真治が、反省の様子を見せる。
「ふぅ。 助かったぜ」
「やっぱり、真治は怒ると怖いな」
 敦と吉雄の二人が、安堵のため息をつく。
「しかし、二人はもう進路決めてるんだよな。 俺も決めないとな」
「吉雄。 俺と一緒に大学行こうぜ。 それで、一緒にナンパしようぜ」
「ここで、その話に戻るのか。 で、吉雄は漠然とでもやりたいことは無いのか?」
「やりたい事、か。 そうだな……」
 考え込んだ吉雄は、若干顔に照れを浮かべ、口を開いた。
「柄じゃないかもだが、動物とかの面倒を見てみたいな」
「へぇ。 意外だな、吉雄って動物好きなのか?」
「それは、俺も意外だよ」
「まあ、ちっこい生き物は好きだ」
「ほんとかよ。 初耳すぎんよ」
「小中高と一緒で、初めて知ったよ」
 真治と敦が驚きの言葉を口にする。
「と、なると何が最適なんだ?」
「ペットショップとかか? 真治はどう思う?」
「トリマーもあるんじゃないか? どちらにせよ、専門知識を勉強する必要はあるだろうな」
「勉強必要なのか。 うーん、じゃあ専門系挟むべきか?」
 勉強はうんざりだ、と顔に浮かべる吉雄。
「それが良いと思うぜ」
「そうだな。 独学でいけることとは思えないし。 となると、吉雄は専門学校か」
「専門校かー。 まあ、決まったな。 意見ありがとな」
「いやいや。 どうってこと無いさ」
「敦。 お前は何様だ」
 調子に乗っている敦と、彼に呆れの目を向ける真治。 進路が決まったと、笑みを浮かべる吉雄。 三人は、昼休み終了の予鈴を耳にした途端、弾かれたように教室へ駆け出した。