見えると怖くない

「おい、お前ら! この間の七不思議、一つは見つけて来てやったぞ!」
 高校の昼休み、円卓に辿りついた俺の後ろから威勢のいい声が聞こえた。
 振り返るとそこにいたのは地毛の赤銅色の髪を短く切り、セーラー服を着た少女だった。
「秋原、七不思議ってなんだったっけか?」
 俺の左隣に座っている男、西灘佳樹が少女に話しかける。
 俺の向かい側に座る長い黒髪が特徴の幼馴染の石川愛紗もきょとんとした顔をしていた。
建てられたばかりのこの高校には、教室前に丸いテーブルと椅子が五つ置いてある。
 そこで俺、芦原幹也と幼馴染の石川愛紗(あいさ)、この高校で仲良くなった西灘佳樹、そしてさっき七不思議を見つけて来たとか言っていた秋原絵美の四人でいつもこのテーブルを囲んで、のんびりと昼休みを過ごしていた。常に席は固定で一番窓側が愛紗、その右隣が絵美、そのさらに隣の一番廊下側が俺、そしてその隣が西灘だった。
今日も昼ごはんを食べながら昨日見たテレビの話しでもしようと思っていたのだが、今日ばかりは何か違うらしい。
「西灘お前な、自分で言っといて忘れるなよ」
「絵美、それって何日前の話しだっけ?」
 俺がそう聞くと絵美は小声で「話しの内容くらい覚えとけよな」と呟きながら愛紗の隣、いつもの席へと座った。
「絵美ちゃん、七不思議を見つけたって何を見つけたの?」
 愛紗が絵美に聞くと、絵美はにんまりと笑いながら言い放った。
「七不思議その四! 学校に現れる謎の三十六人目!」
 絵美は俺達に向かって右手で四という数字を示す。その顔には自信が満ち溢れていた。
「謎の三十六人目?」
「あー、そういやそんな事言ったっけー」
 俺が聞き返すと同時に西灘が思い出したかのように声をあげた。
「ウチの学校、一クラス三十五人に絶対固定されてるけど全クラスには机椅子以外は三十六人分用意されてる、これは入学前に死んだ生徒がいるからだ! ってやつ。芦原にも先週言ったじゃん」
 そういえばそうだった。確かに昼休みにここで同じように西灘に言われた記憶がある。
「でも、結局はスペアで用意してるだけって話しだったような……」
 愛紗がふわりとした声で視線を外に向けながら話す。
 外は昼らしく太陽の光がさんさんと降り注いでいた。
「絵美、そもそも幽霊って夜に出るんじゃないのか?」
 俺がそう言うと絵美がむすっとした顔をした。
「そうだよ絵美ちゃん。幽霊だって時間は守るよ」
「そうだ、遅刻常習犯の石川だって昼は守るからな」
「あ、西灘くんそれはひどくない?」
 目の前で愛紗と西灘の二人の漫才が始まってしまった。こうなると二人はなかなか止まらない。
 その時だった。
「フフフッ!」
「へ?」
「は?」
「あ?」
「…………」
 全員の会話が止まる。
 円卓に響いたのは、女の子の楽しそうな笑い声だった。
「愛紗、今、笑ったか?」
「ううん、笑ってない」
「むしろ芦原が笑ったんじゃねぇの?」
「俺があんな女の子ボイス出せるか! むしろ出してみたいわ!」
「あの、さ」
 絵美がゆっくりと話し始める。
「みんな、見えない?」
「「「何が?」」」
「この子」
 そう言うと絵美は自分の横を指差した。
 そこにいたのは黒髪をポニーテールにした絵美や愛紗と同じセーラー服を着た少女。俺たちはその姿を見た瞬間、わけが分からなくなった。
「絵美、この子は誰?」
 俺は率直に聞いた。他二人もそれに頷く。
「この子は」
「私、深山奏って言います」
「「「喋った!?」」」
 俺達が驚いていると、絵美は楽しそうな笑みを浮かべて言った。
「この深山奏ちゃんが、七不思議の正体で本物の幽霊で三十六人目!」
「えーー!」
「はああああ!?」
「本当に幽霊っていたのかよ……ウソだろ……」
 俺達の反応を見てまた深山がクスクスと笑う。
「で、今度から昼休みこの子も来るからよろしく」
 絵美がそう言うと深山は深々と頭を下げた。
 その動きに何となく俺たちも頭を下げてしまう。
 俺たちと幽霊との不思議な休み時間が始まった。