目先の幸せ

「ねぇねぇ! もし一億円あたったらどーする?」
 僕が高校から帰宅するや否や、妹のB子が言った。
「どうしたの、いきなり。それよりランドセル下ろしたら? いつ帰ってきたの?」
「さっき! あのね、お兄ちゃんにしゃべりたくて、ランドセルおくのわすれてた!」
「あー、そう。」
 B子を促しながら、ランドセルをリビングに置いてやる。僕は一旦制服を脱ぎに自分の部屋に入ったが、その間のB子はずっと部屋の前で「一億円が! 一億円が!」と騒いでいた。
「ねぇー! お兄ちゃんは一億あったら、なにがしたい?」
 部屋着に着替え、出てすぐにB子が聞いてくる。まぁ、学校で友達とごっこ遊びでもしたのかなぁ、と、あまり深くつっこまないことにした。
「お兄ちゃんは一億あったら、なにかほしいものとか、ある?」
 リビングのソファに腰をおろすと、B子も隣に座ってきた。
「そうだなぁ……とりあえず、欲しいゲームは全部そろえたいかな。好きなアニメもDVDボックスで全部買ってみたり」
「ゲーム⁉ いいね! B子もゲームしたい!」
 妹の質問には、なるだけ正直に答える。適当に返事をすると、いつまでもしつこくつきまとうからなぁ。
「ただいま。あら、ずいぶん楽しそうね?」
 買い物に行っていた母さんが会話に入ってきた。
「おかえり、母さん」
「ママ! ママは一億円あったら、なににつかう?」
 B子は冷蔵庫の前で買い物袋をガサガサやっている母さんにも聞きに行く。
「一億円ねぇ。ママだったら、みんなで旅行に行きたいわね! それか、もっと広い家にリフォームするとか!」
「広いおうち!」
 さすがは母さん。やっぱり家族のためになること言うなぁ。
「でも、そんな大金、なかなか当たらないわよねぇ」
「だよね。結局“当たったら”の話」
 一億の話に区切りをつけようとした時、
「そっかぁ……じゃあ、これすてていい?」
「何を?」
 B子は小さな紙切れをゴミ箱に入れようとしていた。幾何学模様に、大きく数字が書かれている。
「こないだ、ママとおかいものしたときにもらった“たからくじ”だよ? 当たらないなら、すてていいよね?」
「「⁉」」
 聞くなり、僕はその宝くじをひったくった。確か、年に一度町内会主催で抽選会やるんだっけ。一等は一億ではないにしろ、結構豪華な賞品が当たるはず!
「そういえば、さっき商店街で当選発表のチラシもらったわ! 見てみましょう!」
 母さんもあわててリビングのテーブルに、チラシを広げた。
「お兄ちゃん、なんかあたった⁉」
「……残念、大きい賞は外れだな」
「なーんだ」
 期待してた分、相当にがっかりするB子。でも、しょうがないな。
 チラシとくじを片付けようとした。すると、今度は母さんが声をあげた。
「あら! 五等の五千円、当たってるわ!」
「「本当⁉」」
「今日はお父さんも早く帰ってこれそうだし、夕飯はみんなで食べに行きましょう!」
「「やったー!」」
 小さくても当たりは当たりだ。僕とB子は思わず嬉しくなった。