レヴィ・ザ・クラッカー

「レヴィ・ザ・クラッカーの現在位置は不明。情報委員は捜索を続行せよ」
 機械的な男の声が右耳につけたイヤホンから聞こえる。放課後がこうやって人探しに無
駄に使われ、もうすぐ午後六時を迎える事を考えると、ついため息をつきたくなる。委員
会にいる事で真面目なフリをしつつ、何か刺激的な日々を求めていたが結局はこんな地味な人探しばかりだ。
そもそもだ。
「現在位置不明で、どうやって人を探せとおっしゃるんですかね……」
情報委員会はこの高校内全ての情報を統制している。そしてその統制をかいくぐって情
報を流した生徒を捕まえてしばらく謹慎させる。全寮制の厳しい学校だからこそありえる事だ。それでも、手掛かりなしで一体どうすればいいのやら。
上は何も分かってない、とぼやきながら学ランの一番上のボタンを外して、俺は辺りを
ぐるりと見回した。二階建ての部室棟。その二階、扉だけが二、三メートル間隔で続き、突きあたりには階段があるだけの何も無い殺風景な廊下だ。両側には狭い文化部用の部室が並んでいる。ただ、時間が時間なので多くの部活はもう引き上げ、蛍光灯だけが静かに廊下を照らしている。見た感じは誰もいないようだった。
「ここも異常はない……と」
 この高校での情報委員の権力は絶対的だ。それに盾突く謎のハッカー。面白そうだと思
ったのにこうも逃げられるとは。俺はイヤホンの先についている無線機の送信ボタンを押
し、問題なしと報告しようとした。
 その時だった。
「情報委員会会則。情報委員会は学校内の情報を全て統制する」
「ん?」
 どこからか声が聞こえる。若いが、かなり落ち着いた声だ。
「そして、そこの委員会の中でも上を直接知ってる京山洋介君は、私を探してるわけだ」
 その声と同時にこめかみに黒く硬い物が当たる。目線を横に逸らすと、銃口に似たような形が見えた。
「俺の名前を、どこで聞いた?」
 相手を反応させないように、わざと落ちついた声を出す。おそらくこめかみに当たっているのはエアガンか何かだろうが、ある程度の危害を加えるには十分だ。
「いろんな所でね。内部からあの委員会を崩せて、飽きてて、なおかつ味方かな、と思って」
 そう言うと彼女は銃口をこめかみから外した。
 俺が振り返るとそこにいたのはセーラー服が良く似合う綺麗な長い黒髪、そして少し吊り目のどこか挑戦的な目つきをした少女だった。
「私、三上風香。情報委員会の中だと、こっちの方が呼ばれ慣れてるかな」
 彼女、風香は一瞬言葉を止めると探していた名前を言い放った。
「レヴィ・ザ・クラッカー」
 そう言うとニコッと風香は笑った。それと同時に下の階から男子生徒数人の声が聞こえて来る。
「委員選出に関して裏取引があったってクラッカーのリークは本当なのか?」
「さあな。知るのは委員長のみ、だ」
 その声が聞こえた瞬間、風香がにやりと笑った。まるで何か達成したかのような笑みだった。その危ない状態での不敵な笑みに一瞬で魅かれた。危ない状況でも情報が流れて行っている事を楽しんでいる。この子ならなにか違う事をやってくれそうだ、そう感じた。
「ねえ、京山くん。ちょっとお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「そう。お願い」
 次の瞬間、風香は俺の頭に銃口を向けた。
「ちょ、ちょっと待て! 俺に撃つ気か!?」
 慌てる俺の声を無視して銃を向け続ける。
 次の瞬間、風香は後ろにくるりと回ると銃を一気に撃ちまくった。
 銃はやはり予想通りエアガンだった。発射されたBB弾はちょうど階段を上がってきた同じ情報委員の二人組に全弾が叩きこまれていく。
 そして、撃ちきると同時に二人組は声も無く倒れ込んだ。
「囮としては……まぁ可も無く不可も無く?」
「はあ!?」
「い・い・か・ら」
 俺を無視して風香はスカートのポケットにエアガンをしまい込む。そして、俺の望む道への切符を示した。
「私と面白い事、したくない? 学校を変えるような事を、さ」
 俺はその言葉に頷いた。
 この日から、俺の道は守る側から攻める側へと変わった。まるで、新しいゲームを買ったような、そんな気分に気付けばなっていた。