セルフサポート

 中世ヨーロッパ風の世界で、有名な神を祭る神殿がある都市

「なあ、まだつかないの?」
「もう少しですよ。 ルーカス様」
 馬車の中、グチグチと文句を言う、仕立ての良い服を着た少年と、彼の従者らしいメイド服の少女が乗っていた。
「それで、アリス。 俺らの行く都市って、何だっけ?」
「カリア。 広大な果樹園と丘の上に建つ神殿が有名な街です。 そして、神殿に祭られているのは」
「太陽神だっけ。 大人から子どもでも知ってるような神様は、俺でもさすがに覚える」
「そうですね。 いくら、堕落的なルーカス様でもご存知でしたか」
「一言余計だろ」
 本来、仕える主には言わないようなことを口にするアリスだが、ルーカスは大して気にした様子も無く、外へ目を向けた。
「しかし、親父もいきなり、仕事を押し付けてくるなんて、勝手だよな」
「いえ、日々、無意味にお金を浪費するルーカス様を見捨てず、仕事を与えるなんて、聖人の如き方と思いますが」
「俺は、のんびり生きたいんだよ。 ほんとなら、無視するが、家から追い出すって言われたからな」
「むしろ、追い出されるべきだと思いますけどね」
 外へ向けていた視線をアリスへ向け、ルーカスはため息混じりに言う。
「楽な暮らしのためならって、割り切ってきたんだから、少しくらい労ってくれないかな?」
「それは仕事を終えてから、言って下さい」
「はいはい。 それじゃ、着いたら起こして」
「かしこまりました」
 ルーカスが、目を閉じ、寝息を立て始める。 アリスは一礼し、主を起こさないよう、静かにする。

「ルーカス様、起きてください」
「うーん。 もう着いたのか」
 馬車が街の門の前に出来た列に並ぶ辺りで、アリスに起こされたルーカスは欠伸する。
「何の列?」
「ヘイ。 話によると何でも、異教徒が暴れたとか」
「異教徒、ね。 神様のお膝元でよくやるよ」
 列に目を向けたルーカスは、御者へ聞く。 そして、つまらなそうにもう一度、欠伸をした。 
「ルーカス様。 シャキッとしてください。 ただでさえ、だらしない姿をさらに悪化させる気ですか」
「分かった分かった。 で、異教徒について、他に分かることはある?」
 若干、うんざりした顔をしながら、御者に再度聞く。
「太陽神は堕落した。 新たな神を称えよ。 それと、現在の王政に関して、不満を 何度も繰り返してるという話です。 それと、何人かけが人が出ているようで」
「どうする? ずいぶん過激みたいだし、今入るのは危なくない?」
「馬車を降りて、徒歩で行きましょう」
「いやいや、話聞いてた? 中には過激な方々がいるんだよ?」
「ルーカス様」
「おお? 話を理解してくれたのか」
「自分の身はご自身で守れますよね?」
「お願いだから、話を聞いてぇ!」
「いいから行きますよ」
「ちょぉぉ!?」
 ずるずると見た目に似合わない力でルーカスを引きずるように馬車を降りるアリス。 抵抗むなしく、ルーカスは馬車から降ろされ、街の門まで連れて行かれた。 その様子を見た、列に並ぶ人々は目を丸くしていた。
「止まれ。 現在街は封鎖中だ」
「ほら、怒られるし、戻ろうか」
「この方は、この国の第三王子です。 この問題を解決すると、仰っております」
「――ちょっ!?」
 その言葉に、高圧的な態度で、ルーカスたちに対応していた衛兵の態度はころりと変わった。
「し、失礼いたしました! 今すぐご案内いたします!」
 態度を改めた衛兵は、大急ぎで、二人を門の中へ入れた。
「おい。 アリス。 お忍びじゃなかったっけ?」
「緊急事態ですし、いたし方無いかと思われます」
「そもそも、行くなんて言ってないし」
「ぐずぐず言わないでください。 見苦しい」
 案内する衛兵の後ろで、こそこそ会話するルーカスとアリス。 アリスはルーカスの数歩後ろを歩いている。
「見苦しいって……」
「男なら、グダグダ言ってはいけません」
「分かったよ。 やればいいんだろ?」
 観念したと、ため息をつくルーカス。
「で、話だと異教徒が云々って聞いたけど、どうなんだ?」
「はっ! そうです。 政治に関しての不満なども言っております」
「アークエ様は立派に勤めていると思いますがね。 ぐうたらしている誰か様と違って」
「確かに、親父はきっちりしてると思うんだよなぁ」
 衛兵の答えに、二人はそう反応を見せる。
「けが人も出ておりますし、こちらも早急に解決させたいです」
「ふーん。 死者は?」
「今のところはいません。 ですが、それも時間の問題かと」
「そうだよな。 穏便にいけないかな」
「ルーカス様。 それは難しいと思います」
「はい。 けが人も出ている現状では難しいですね」
「だよなぁ」
 困り顔を浮かべるルーカス。
「それで、今はどこに向かってるんだ?」
「ああ、それはですね……」
 衛兵が振り返る。 笑みを浮かべる顔にルーカスはいやな予感を感じた。 だが、気づいた時には、既に遅かった。 後ろで、倒れる音が聞こえ、ルーカスは振り替えようとしたが、全身をしびれる感覚が走り、そのまま倒れこんだ。
「……やれやれ。 カモが自らやってきてくれて助かったよ」
 意識を失う直前、衛兵がそういうのが聞こえた。 その意味を理解する間も無く、ルーカスの意識は闇に消えた。

「ん……」
「お目覚めかい? 王子様?」
 目を覚ましたルーカスが目にしたのは、複数の人がニヤニヤとした笑みを浮かべ、こちらを見ている光景だった。
「ドッキリ、にしては、電撃魔法を浴びせるのはやりすぎじゃないか?」
 自分はイスに縛り付けられていることに気づいたルーカス。 内心の動揺を隠すように、軽口を叩く。
「残念ながら、ドッキリじゃないぜ」
「ああうん。 だよね、知ってた」
 先ほどの衛兵の言葉と周囲の嘲笑を浴びせられる中、覚醒した頭で考える。
(罠か? 見事につられたみたいだな)
 おそらく、異教徒はデマだったのだろう。 そう苦笑を浮かべる。
「それで、俺を捕まえて、革命でも起こすのか?」
「おやおや。 噂ってのはあてになら無いもんだな。 無能では無いようだ」
「知らないのか? 噂ってのは信じるものじゃないんだぜ」
「そうみたいだ」
 ハハハと笑う衛兵。 だがすぐに真顔になり、ルーカスの顔を殴りつけた。
「のこのこやって来たくせにな」
「ッ! 俺も、来たくなかったんだが」
 痛みに顔を歪ませながら、ルーカスは視線を周囲に巡らす。
(アリスは、いないか。 逃げててくれてるといいが、無理か)
 自身の従者の少女の姿が無いことに、焦りを感じる。 おそらくは、自分と同じように、どこかへ捕まっているのだろう、と考える。
「ああ。 そうそう、あんたにくっついてたガキ。 見た目は良いし、後で楽しませたもらうぜ?」
 その言葉により、いやな方の予感が当たった、と分かり、苦笑をひそかに浮かべる。
「まあ、人質として、有効活用させてもらうぜ? 王子様よぉ?」
 衛兵の笑いと、その言葉の後、独房に連れて行かれる。
「入ってろ」
 イスに縛り付けられたまま、放り込まれた。 床に顔を打ち付けられる。
「! つうぅ。 客人はもう少し丁寧に扱えよ」
 ゴロリと、体を横にし、叫ぶが返事は無い。
「もう行ったのか。 てか、見張りぐらい立てろよ」
 文句を口にし、本当に誰もいない事を確認。 ルーカスは手探りで、自分を縛るロープを調べる。
「力づくは無理な強度か。 まあ、ロープを引きちぎる力なんて無いんだけど」
 独り言をしゃべり苦笑を浮かべる。
「……って、この縄緩んでるぞ。 おい」
 縛り方が甘いのか、さっきの放り込まれたおかげか、縄に緩みが生じていた。 思わず、突っ込みを口にしながら、縄を解く。
「ちゃんとチェックしろよ。 こっちは助かったけど」
 殴られた場所、打ちつけた場所の二箇所を確認しながら、呟く。
「まったく、男前が台無しじゃないか」
 鼻血を止め、文句を口にする。 幸い、鼻血と頬の腫れ以外、怪我らしい怪我は無い。 それを確認した後、ルーカスは自分の入れられている独房を見回す。
「鍵はかかってるし、窓ははるか上か」
 鉄格子はしっかり施錠されており、光入れ用の窓は、手の届かない頭上、しかも格子が嵌っている。
「どうしようか……」
 考え込む。 どこかに抜け穴が無いか、と。
「無さそう、か?」
 もう一度、見直したルーカスは、壁の一部から風が吹き込んでいることに気づいた。
「穴でも開いてるか」
 試しに突いてみると、石の一部が崩れた。
「よっし! 幸運の女神様は俺に味方してくれてるな」
 ガッツポーズをした後、石を崩す作業を始める。 
 数時間後、外へと穴が貫通した。
「イツッッ。 後少し長かったら、手が使い物にならなくなりそうだな」
 爪が割れ、皮膚はちぎれ、血を流す両手を見つめ、ルーカスは呟く。
「後で、アリスに怒られるかな?」
 自身の衣服を破り、それを包帯代わりにし、苦笑混じりに呟く。
「まあ、あいつを見つけてから考えよう」
 ルーカスは、目的を決めると、アリスを探すため、街の中を歩き始めた。