森の中を歩く二人


鬱蒼と茂る森の中を人間とエルフが歩いていた。
人間の名はレン。背は高くたくましい体に重厚な鎧と黒いマントをまとい、背中には身の丈を超えるほどの大剣を背負っている。目つきが悪く、常に顔をしかめている。 
 エルフの名はアリア。エルフ特有の端正な顔立ちに尖った耳。ワンピースのような服をまとったかわいらしい少女だ。手には木の実や果実が詰まった籠を持っている。
エルフの里に用事があるレンは森に一人で入り、さまよっていたところ、魔物に襲われているアリアを見かけ、エルフの里に案内してもらうことを条件に彼女を助けた。
「ねぇねぇレン?」
「『さん』をつけやがれ、ちびっ子」
 目の前でぴょこぴょこはねながら歩いているアリアをにらみながら言う。
「本当に里に行くの?」
聞いてねぇなこいつ、と思いながら返答する。
「何か問題でもあるのか?」
アリアはうーん、と少し考えてから話す。
「エルフは人間嫌いだからね。あなたはいい人そうだから大丈夫だと思うけれど、血の匂いが濃いから警戒はされるかもね」
 レンは自分の匂いを嗅ぐ。装備品は逐一手入れしているのでそこまで血なまぐさいものは感じなかったが、エルフは人間より感覚が鋭いため、アリアにとってレンはまるで獣のようなイメージだった。
「でもあなたには助けてもらった恩もあるしね」
「ちょうどいい案内役を見つけたと思っただけだ」
ぶっきらぼうに答え、そっぽを向く。
「そんなことより、いつになったら着くんだ」
「もう少しで着くよ」
 レンはやれやれとため息をつく。
 森はどこもかしこも同じような光景で、数十分歩いてもエルフの里どころか、アリア以外のエルフを見かけることすらなかった。
「にしても、エルフってのは引きこもりなのか? 全然見かけないな」
 レンは周囲を見渡しながら言う。
「確かにエルフはあんまり里からは出ないけど、全然いないってことはないと……」
 アリアは急に口を止める。
「おい、どうした」
 レンは先導するアリアの前に出ようとするが、手で制止される。
「待って。また魔物の匂いがする」
 アリアは周囲を警戒しながら嗅覚で魔物の位置を探る。
「あっちから来る!」
 魔物の位置を察知し指をさすアリア。
 レンはアリアの前に出て背中の件に手をかける。
 遠くの草ががさがさと音を立てている。それは次第に近づいてきて、その姿が判明する。
 先ほどアリアを襲っていたのと同じ、狼に似た魔物だ。黒い毛皮におおわれたそれが四頭、牙をむき出しにして駆けてくる。
「アリア、隠れてろ!」
 不意に名前を呼ばれたことに驚きつつアリアは近くの木の陰に隠れる。
 一頭が先陣を切ってレンに飛びかかる。剣を抜くのが間に合わないため、左腕で薙ぎ払う。魔物の顔面にめり込み、魔物の口から血が噴き出す。
 大きく吹き飛んだ魔物は遠くの木に直撃し、地面に落ちるとそのまま動かなくなる。
 「まず一匹……!」
 顔に飛んだ血しぶきを腕で拭いながら、今度こそ大剣を抜き、右の肩にかけるようにして持つ。大剣はあまりにも重くレン自身もまともに構えることができないためだ。
 三体の魔物はそれぞれ別れ、左右と正面からばらばらに襲い掛かる。
 目の前の一体に力任せに大剣を振り下ろす。ぐしゃり、という音とともに魔物がつぶれ、あたりに肉塊が飛び散る。
 左の魔物が左足に食らいつこうとしたのを無造作に踏みつぶす。踏みつぶした腹の部分が地面にこびりつき、前後に分かれた魔物はピクリとも動かなくなる。
 右の魔物に気を向けると、すでに喉笛に喰らいつかんと飛びかかっていた。とっさに左腕を突き出し、喰らいつかせる。魔物はギリギリと顎に力を入れているようだが、堅牢な鎧には牙は通らなかった。大剣をしまい、右手で魔物の頭をつかみ引きはがすと、そのまま握りつぶし放り投げた。
「やれやれ、また血まみれになっちまった」
 鎧についた血をマントに拭う。
「おい、ちびっ子! もう出てきていいぞ!」
 レンはアリアが隠れている木の方を向くがそこには長身のエルフにとらえられたアリアの姿があった。アリアが持っていた籠は地面に落ち、中身が散らばっている。
 大きな弓を背負ったエルフの男は、アリアののど元にナイフを突きつけている。
「少しでも妙な真似をすればこの娘の命はないぞ」
捕まっているアリアは口を押えられ声が出せずうなっている。。
 レンは面倒くさそうにため息をつく。
「助ける義理は無いが、そいつがいないとエルフの里に行けないんでね。見逃してもらえねぇもんかな」
「人間風情が里に用事でもあるのか?」
「お前に話す義理も無ぇな」
ふざけた様子のレンに男は逆上し、アリアにさらにナイフを近づける。
「その御大層な剣を下ろしてもらおうか。鎧も外せ」
レンはしぶしぶ要求に応じ、大剣を地面に下ろす。それと同時に石を拾いあげ、男の顔面目掛けて投げつけた。石は避けられるがとっさのことに男は体勢を崩した。その隙にレンは男に近づき、ラリアットをかます。男は後ろに吹き飛び、地面を転がった後、動かなくなった。
「ったく、大丈夫か?」
「う、うん。その、ありがとう」
レンは大剣を拾い上げる。
「そんなことより、さっきの奴といい、魔物といい、嫌な予感がするな」
「うん。私もそう思う。急いで里に行こう」
 二人は駆けだした。