病室の友達

アサミがナオの病室を訪れたのは、実にひと月振りだ。毎週末、病室を訪れる約束だったが、最近は高総体のこともあって部活での練習時間が増え、なかなかお見舞いに行くことが出来なかったのだ。
「ナオ! 久しぶり。ごめんね、このところ全然来れなくて」
「アサミ、気にしなくていいよ。忙しいのに来てくれてありがとう」
 アサミが病室の扉を開けると、ベットに腰かけたナオが笑顔で手を振るのが見えた。傍の丸椅子に腰かけ、アサミはナオと向かい合わせに座る。
 二人は幼い時からお互いを知った仲だったし、ナオの身体が弱いのもアサミは知っていた。同じ高校に入学し、運動部には入れないと知っていながらもナオは「マネージャーでもいいから、お願い!」と懇願して、アサミと同じテニス部に入部。しかし、ナオの体質では多忙なマネージャー業務に追いつけず、つい半年前に体調を崩し倒れてしまった。今では学校も休んで入院生活をしている。
「まあ、ナオの身体のことは知っていたけど、まさかぶっ倒れるなんて」
「うん。あの時は『ここを頑張れば、自分の脆さを克服できるかも』って、無理してたところもあったしね」
「ナオってば、頑張りたい一心で無理しちゃうところあるよね。全く、びっくりさせないでよね」
 アサミが呆れたように笑うと、ナオもつられて微笑んだ。
「ごめんごめん。でも、もう大丈夫――」
 もう大丈夫だから、と言いかけて、ナオは激しく咳き込む。ごふっ、ごふっ、と濁ったような咳の音をたてて、ナオは苦しそうな顔で身体を前後に揺らした。
「ちょっ、ナオ! 大丈夫⁉」
 突然の出来事だったが、アサミはすぐにナオの背中をさする。一分ほどしてようやく咳も止まり、ナオは涙目で顔を上げた。
「――っはぁ……ごめん、ね」
「ううん。ちょっとしゃべりすぎたね」
 咳で喉が荒れたのか、掠れた声で話すナオ。アサミはそれを優しく宥める。
「今日はもう休みな。部活のみんなも、クラスのみんなも待ってるよ。ゆっくり身体休めな」
 アサミは立ち上がって、ナオをベットに寝かしつけてやる。ナオは横になると、弱々しい表情でアサミの顔を見た。
「アサミも、高総体頑張ってね」
「うん。それじゃあ、またね」
「うん。またね」
 これ以上ナオに何もしてやれない、という感傷的な気分に駆られながらアサミは病室を出た。