祓い屋コウとガシャドクロ

 日没直後の逢魔が時。
「そこにいるのは誰ですか?」
灰色の単衣に深緑の羽織を重ね着ている少年が、田んぼ道の先にいる紫の靄に向かって問いかけた。
「見えてるってことは、俺の正体は分かってるんだろ?」
「黄昏の返答にふさわしくないですね。……最近この辺りを荒らしている鬼さん?」
「そこまで理解しているなら、俺の力が最大限に引き出される前に逃げることだな」
 紫の靄は、顔が無くとも少年を睨む気配を出している。しかし少年はそれに動じず、靄に歩み寄りながら左の袖口から篠笛を取り出した。
「僕は祓い屋のコウです。貴方を討伐するために参りましたので、逃げるわけにはいきません」
「祓い屋? 聞いたことねぇな。まあ、子どもが何かできるとは思えんがな」
「その通り。僕は呼び出すだけですから」
 次第に大きくなる靄からの煽り文句もかわしたコウは、篠笛を口元に運び異なる音を三回鳴らした。
(笛の音で何になるんだ)
 気を抜いている靄の後ろで、ガチガチ、ガチガチ、と何かがぶつかるような音がした。
「あ? ガチガチうるせぇ――」
 鬼の形に近づいていた靄が音に向かって振り返ると、そこにいたのは巨大な骸骨、がしゃどくろだった。
「なんだ! なんだこいつは!」
「僕の友人、ガシャドクロです。普段は大人しいんですけど、貴方のような悪い妖怪が大嫌いなので、僕の変わりに討伐してもらってるんです」
 ガシャドクロは、骨をガチガチと軋ませて靄に顔を近づける。そのあまりの大きさに驚き動けなくなった靄は、空が黒くなっても完全な鬼にはなれなかった。
「先ほど、祓い屋は聞いたことが無いと仰いましたよね? それは当然です。だって、僕たちから逃げられた妖怪はいないんですから」
 コウはもう一度笛を構えて、ガシャドクロを呼び出した時とは違う音を五回鳴らした。すると、ガシャドクロは鬼になれなかった靄を掴み、闇の空間が広がる大きな口の中に入れた。
「ありがとう、がしゃ。今日はこれで終わりだよね?」
「終わり。もう、暗いから、帰ろう……」
「そうだね、明日も討伐の依頼がたくさんあるし、ゆっくり休もうか」
 帰ろうと言われたコウは、篠笛と右袖に入れていたでんでん太鼓を持ち変える。コウの足元に降ろされたガシャドクロの手に乗り、そのでんでん太鼓を鳴らすと、二人は音と共に元の世界へ消えて行った。