潜伏ナイト


「ナイト、あなたの力を貸してください。あなたの力が必要なのです」
 ぼんやりと見える金色のショートヘアの幼い女の子が涙を浮かべている。
「俺の名前はナイトじゃない。俺は、海斗だ」
「あなたの能力はナイトなの。だから……」
 少女は、だんだんと薄くなり離れていく。
俺は、その少女が消えてはならない存在だと心の中で感じた。理由はわからないがまだ聞くべきことがあるのだと思う。
「待ってくれ、待ってくれ」
 走ってもその少女には追いつかない。そして、少女は空気となり消えた。

 目覚まし時計の音が部屋で鳴り響いている。
 俺は、布団を蹴飛ばし、飛び上がって起きる。時刻は八時を過ぎていた。
 これは遅刻するかもしれない。
 パジャマを脱ぎ捨て、新しい高校の学制服に袖を通す、
 入学そうそう遅刻なんて学校の人全員に目をつけられてしまう。
 今日から俺は、高校生になるんだ。中学生の時とは違うのだ。
 朝ごはんも食べずに、家を飛び出す。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
 母親の声が遠い後ろのほうから聞こえた。父親はもう会社に行ったみたいだ。
 俺は、自転車のペダルに足をかけ、ロケットのように学校へと向かった。
 
 なんとか、学校に間に合った。
 学生服の中は、汗でむしっと熱くなっている。俺は、その熱気を外に出すように仰いだ。
「おはよう。海斗くん。高校になっても同じクラスなのはこれは運命かもね」
「まぁ、そうかもな」
 こいつは、斉藤梨香。中学からずっと同じクラスだ。しかも、俺の苗字も斉藤だからいつも近い距離に席があるのだ。そのせいもあって彼女とは仲がいい。
 しかし、彼女には困ったこともある。彼女は占いとか、運命とかそういう類のものを信じやすいのだ。
 中学二年のときのクラス替えでも彼女はさっきのような言葉を俺に言っている。そして、毎年言っている。
 俺は。彼女の運命という言葉を流すことにしている。
 彼女は、春休み期間中の思い出をぺちゃくちゃと喋っている。
 俺はそれに相槌を打ちながら、教室を見渡した。
 クラスメイトはいくつかのグループに既に分かれていた。たぶん、同じ中学校の時の人達と集まっているのだろう。しかし、そのグループたちに属さない人たちも何人かいる。ずっと本を読んでいたり、周りを見てそわそわしたりしている個人たちだ。
 入学そうそう別の学校の人と仲良くなるのは難しいだろう。俺も、梨香がいなかれば一人なわけだし。
「ねぇ、海斗くん。ちゃんと私の話聞いてるの?」
「あぁ、聞いてるよ」
 梨香は少し怒った様子の声だったが、俺は、一人の女生徒に目を引かれていて、テキトーに梨香に返事をした。
 俺の目を奪った女生徒は、金色のショートヘアに、青い澄んだ瞳をしていた。しかし、その青い目はどこか遠く眺め、曇っているように見えた。そして、その女生徒と俺は会った時がある感覚がした。
「あの、どこの中学校卒業ですか?」
 俺はその女生徒に声をかける。女生徒はゆっくりと顔を上げて俺の目をじっくりと見てきた。その青い瞳を見ていると何かに引きずり込まれるような気がして目を逸らしてしまう。
「名前から名乗るべきよ」
  その女生徒は淡泊に言葉を発した。
「ごめん。俺の名前は斉藤海斗。クラスメイトだし、海斗って気安く呼んでほしい」
「なら、海斗。私は、クリス。あなたの力を貸して」
 クリスは突然わけのわからないことを言った。しかし、俺の頭はこの言葉を知っていた。
「ごめんなさい。言う言葉を間違ったわ。私は日本じゃなく海外のあなたたちの知らない中学校出身よ」
 彼女の言っていることはどれもおかしかった。
「クリスさんの中学校のことはもういい。クリスさんは俺と会った時ないか?その時も力を貸してとか、なんとか」
「実際に会った時はないわ。でも、あなたがナイトの力を持っていることはわかるの。私はクイーン。海斗は私を守るためにナイトの力を持っているのよ」

 俺はナイト、クリスを守るための存在。
 わけがわからない。俺に特別な力があるなんて今まで生きていて感じたことすらない。
 なぜ、クリスを守らないといけないのか。クリスを何から守ればいいのか。俺にはなにもわからない。
「なにぼーっとしているの?お昼の時間なくなっちゃうよ」
 梨香の声で俺は我に帰る。
 お昼の時間は残り十分くらいしかなかった。母親がカバンに入れてくれていた。弁当を急いでお腹の中に入れた。
「海斗はナイト。それは決まったことよ。私たちはもともと個々の住人じゃない。別の国で政権を奪い合って戦争をしていたのよ。しかし、不利な状況になり逃げるようにこの世界にやってきた。いつ追っ手が来るかわからない。私が今、政権を握っているのだから」
 クリスは、そっと手を広げると、小さな剣が手のひらに乗っていた。
俺はその剣を知っている。頭の奥底で記憶がぐちゃぐちゃと動く。激しい頭痛に襲われ、俺の意識はどんどん遠のいていった。

目を覚ますと、全く知らない天井を見ていた。そして、布によって作られた閉鎖的空間に俺が寝ていることを理解した。
「目を覚ましたか、ナイト。私はここにいます」
「クリスか。無事でよかったぞ」
 横には座っている。女性は初めてみる女性だった。しかし、その人がクリスであることはその女性の瞳を見ればわかった。
「もう追っ手は来たのか?」
「まだ来てないわ。存在も確認できてない」
 体起こす。手のひらを握って開いて体調子を確かめる。少し筋肉量が少ないが問題わないだろう。
 ベッドから足を出し、体を軽やかに動かす。
「戻ってきてよかった」
 クリスは俺に抱きつく。その瞳には涙を浮かべていた。
「心配させて悪いな」
 俺は、クリスの柔らかい唇に優しくキスをした。

「お邪魔するぜ。剣を返してもらおうじゃないか」
 布越しに人影が見える。それは、大きな大剣を肩に担げて、ガニ股でこちらに向かってくる。俺には武器はなにもない。
 窓を破り、外に出る。外は大きな庭のような場所だった。すべて土で庭と呼ぶには違うかもしれないが、こう伝えるしかない。
 そこは遮蔽物がなく追っ手を撒くには不利な場所だ。迎え撃つしか方法はないだろう。
「次は逃がさないぜ」
 窓から飛ぶように飛び出し、大剣を振るう。
 クリスを持ちながらだとかわすのが精一杯だ。
 相手は大剣を振ってくる。その攻撃を間一髪でよける。このままではジリ貧だ。
「ナイト、私を下ろしてやつをやっちゃって」
「わかった」
「おいおい、お姫様を下ろしちゃっていいのかい。守れなくなっちゃうぞ」
 大剣を大きく振りかぶるやつの懐に入り一撃をくらわす。
 やつはそのまま地面へとうつ伏せで倒れた。
「おい、他の仲間はどこにいる」
 うつ伏せになったやつの髪を引っ張り、顔をあげさせる。
「これから、くるぜ。覚悟しているんだな」
 やつはガクッと力を無くして目を閉じた。


つづく