辛い食べ物

学園祭当日。敦也はクラスのお化け屋敷で驚かせ役を受け持っていた。顔に特殊メイクをしたゾンビとして仕事をしていた。暗い教室の中千鳥足で呻き声を上げながらお客に近づく様子は何とも不気味だ。
 不気味に改装した教室の扉付近にある縦長のロッカーから飛び出すのだが……。
「何このゾンビ! 気持ち悪いんだけどー」
 お客の女子高生グループが敦也の顔を見ながら大爆笑している。
 ……くっそ、俺だって本当はゾンビだなんてやりたくなかった。だけど、当日になってゾンビ役が一人休んでしまったんだから仕方がないじゃないか。
 そう、心の中で言い止め女子高生の生足を見送った。
「何女子高生の生足なんて見ているのよ、このエロゾンビ」
 そう言いながら頬を引っ張るのは同じクラスの美樹だ。長い黒髪が特徴的で今は白装束に顔や腹部から流血に見立て赤い絵の具を垂らした幽霊姿をしている。
 まったく、ゾンビと日本風の幽霊を同じ部屋に入れるなんて馬鹿なのか? このクラスは……。
「あでで、はなひてくへほ、みひ(離してくれよ、美樹)」
 美樹はジト目でこちらを見つめながら「いやらしい」と一言だけ呟くとそっぽを向いた。
「それにしても客が少ないな……」
 敦也がそう言うと美樹は敦也の方へと向き直りながら答える。
「そりゃ、室内のクオリティは低いし、私達も見た目からしてそんなに怖くないしね」
 確かに美樹の姿は誰が見ても怖いと感じる要素がない。怒るときは別だけど……。
 そんなことを話しているとクラスメイトの男子生徒がやってきた。
「敦也と美樹さんは休憩に入っていいよ。後は俺達で回すから」
 それはありがたい。あまり疲れていないが、お腹が空いていたので何か口にしたいと思っていたのだ。
「ああ、それじゃ、後は頼む」
 敦也と美樹はお化け屋敷を後にした。
 その後、二人で出店を回ろうという事になったのだが、着替えるのがめんどくさいとのことでお化け屋敷の服装をそのまま着ている。
「それにしても色々な店があるな」
 敦也は長い廊下を歩きながら言う。
 それにしても周りの視線が痛いなぁ……。
「なんか、私達、周りからすごい目で見られているわね。もしかして私達、恋人同士に見えたりしているのかしら?」
 冗談めいた美樹のセリフに敦也は笑いながら否定する。
「いやまさか! どちらかというと漫才コンビの方が似合ってんじゃないか?」
 そういうとなぜか美樹は怒りながら早足で敦也から距離をとろうとする。
「お、おい。どうしたんだよ美樹?」
「別に何でもないわよ」
 そう拗ねながら歩いて行く。おかしい、美樹は漫才コンビとか好きなはずなのだが……。
「お、敦也に美樹ちゃんじゃないの! うちのクラスのたこ焼き食べていかない?」
 そう、声をかけてきたのは敦也の姉である梨杏だった。制服姿でたこ焼きとかかれた看板を持っている。
「梨杏姉ぇ! そっか、そういえばたこ焼きやってるんだっけ」
「そ、二人にお勧めの品もあるからさ!」
 そう言うと、梨杏は二人の手を取って教室へと引き込んだ。
 教室の中は奧に調理スペース近くに飲食スペースとシンプルながらも綺麗な装飾がされていた。
 黒板には三つほどメニューが書かれている。
『たこ焼き八個400円』
『明石焼き八個400円』
『カップルたこ焼き八個600円~当たりが出たら豪華景品』
 最後のたこ焼きだけ当たり付きってどういうことだ? しかも一・五倍もするなんて。
「ちなみに私のおすすめはカップルたこ焼きだ」
 梨杏は二人に笑顔でそういった。
「いや、俺、普通の……」
「それでお願いします!」
 敦也の言葉を遮り、美樹はカップルたこ焼きを注文した。
 おいおい、なんでそんなもったいないことするんだよ! まさかそんなに豪華景品がほしいのか?
「はい、おまたせー」
 梨杏はたこ焼きを渡すと不敵な笑みを浮かべた。
 ……絶対何かある。
「敦也、アンタも食べなさいよ」
「いや、何入っているかわかんないし……」
 敦也は食べようとしない様子を見て梨杏は面白くないと感じたのか、
「敦也、たこ焼き食べないんなら、アンタの部屋のゲーム全部売り払うけどいいの?」
「食べます! 食べますってば!」
 なんつー姉貴なんだ! 恐ろしいこと口にしやがって……。
そう思いながら一つたこ焼きを食べる。熱々のたこ焼きは外はカリッとしていて中はとろりとしている。
そしてとてつもなく辛かった。
「ごぼっ! か、辛ぇ!」
 あまりの辛さに咽せてしまった。喉と舌に針の刺すような痛みが走る。
咳と同時に涙も出てきたぞ! 
「お、大当たり! まさか一発で引き当てるだなんて運が良いねぇ!」
 梨杏は笑いながら話している。出来ることなら同じ思いを味わわせてやりたい。
「梨杏姉ぇ、このたこ焼きに何入れたんだよ!」
「お、よくぞ聞いてくれたね! 私はこれを入れたんだ!」
 そう言って取り出したのは小瓶に入った赤い液体。ドロッとした液体でラベルにはドクロマークが炎に包まれているような絵とデスソースという文字が目に入る。
「こんなものお客に出すつもりだったのかよ!」
「えー、良いじゃん。なんか面白そうだしー。あ、そうだ! これ景品の映画のペアチケットね」
 そう言って梨杏は敦也に二枚のチケットを差し出す。敦也は何も言うことなく受け取った。
「どうする、美樹?」
 チケットの片方を美樹に差しだそうとしたとき彼女はクスクスと笑っていた。
「な、なんだよ……、何がおかしいんだ?」
「だ、だってたこ焼きを食べたときのリアクションが今までで一番ゾンビっぽかったんだもん」
 ……後半はもっとお化け屋敷の客が来るかもしれない。