彼女と過ごした夏の日々


 見渡す限りの緑に畑や田んぼがそこら中にあった。僕は夏休みで久ぶりにお爺ちゃんの家に遊びに来ていた。小さい頃に来たのが遠い過去のように思えるほど懐かしい場所だった。
 前に来た時と何も変わらない田舎だ。僕はその風景がとても美しいものだと思えた。
「早くいくわよ」
「はーい」
 車から降りたら周りの田舎の風景に足を止めて眺めていた。母親から呼ばれるまでその風景をずっと眺めていたかもしれない。僕は止めていた足を動かしてお爺ちゃんの家に上がった。
「お邪魔します」
「おお、来たか」
 お爺ちゃんは僕が来たことを心より歓迎してくれた。数日はお爺ちゃんの家に泊まることになった。お爺ちゃんと話をしたり、おいしい料理を食べたりした。
「外で遊んでおいで」
 遊びに来た次の日にそんなことをお爺ちゃんに言われた。
「外?」
「ああそうだ、家にずっといるより外で遊んだほうがいい」
「分かった。お爺ちゃん」
 僕は家から出て田舎町を散歩することにした。太陽の日差しが強く、外はとても暑かった。田舎町は家や畑が密集していた。田舎の風景を見ながら歩いていると一面に向日葵が咲いていた。向日葵畑だったと思う。
「うわぁ」
 その景色を見た僕は興奮した感情が湧き出して来た。子供の頃に来たときはお爺ちゃんの家で過ごすことが多かったので向日葵畑を見る機会などなかった。こんな景色を見れるなんて思っていなかった。
「っ……」
 僕は息を呑んだ。そこには一人の女の子がいた。歳は僕と同じぐらいだろうか。長く伸ばした黒髪に日で焼けたような少し黒くなっている肌は僕の瞳にとてもきれいに映った。日、周り畑とは比べることが出来ない美しさがそこにはあった。
「えっ……」
 彼女に僕に気づいたと思ったら驚いたように目を見開いていた。彼女は少しだけ頬が赤く染まっていた。僕はそんな彼女の表情を見て頬が熱くなるのを感じた。
 さっきまで吹いていた風の音が聞こえなくなるほど僕は彼女に夢中になってしまった。彼女もまた僕を見続けたまま固まっている。
「き、君の名前は?」
 僕は口ごもりながらも彼女に話しかけてみた。
「あ、私は皐月。君は?」
「僕は翔」
 僕たちはぎこちなくも自己紹介をしていた。
 僕にとって運命の出会いだった。こんなにも心が跳ねるようにドキドキするなんて経験したことがなかった。一目ぼれという奴だろう。お爺ちゃんの家に遊びに来ただけなのにこんな出会いをするとは思っていなかった。
「ねえ、翔君。一緒に遊ぼう」
 彼女ははにかんでそう言った。
「いいよ、一緒に遊ぼう」
 僕は彼女のことが知りたくなってそのお誘いに乗ることにした。彼女はこの田舎町に住んでいるそうだ。遊んでいるうちに彼女のことや僕のことを教え合った。向日葵畑で追いかけっこをして遊び、花と花編んで輪を作り彼女の頭にのせてあげるととても喜んでくれた。
「ふふ、ありがとう」 
彼女は僕に向かって笑顔でお礼を言ってくる。彼女の笑顔を見ると胸が苦しくなる。彼女の瞳を見ていると未来が見えるような気がする。彼女と結婚し、子供ができて一緒に暮らしている風景が頭をよぎる。
「また、遊ぼうね」
「うん」
 日が暮れてきてお爺ちゃんの家に帰らなければならない時間になり彼女と別れるときにまた遊ぶ約束を交わした。
 次の日もまた彼女と一緒に手をつないで外を駆けまわる。空は雲がいくつかあるぐらいでとても青く
日差しもそこまで強くはなかった。そんな日だったので二人で草むらに寝そべって日向ぼっこをした。
「明日には帰るんだっけ?」
「……うん。そうだね」
 僕は明日には家に帰らないといけなかった。彼女と別れるのは嫌だけどお爺ちゃんの家にずっとは居られない。彼女は何処か寂し気な表情をしていた。
 そんな彼女を見ると僕は胸が苦しくなった。
「五月ちゃん」
「何? 翔君」
「僕はあなたが好きです」
 僕は彼女に告白をしていた。思いを伝えられないまま彼女と別れるのは嫌だった。そんな気持ちがあり、後先考えずに言っていた。
「え」
 彼女は顔が真っ赤になり口を開いては閉じることを繰り返していた。僕はそんな彼女のことを見つめたまま返事が来るのを待っていた。僕の顔は真っ赤になっていたと思う。
「私も、翔君のことが好きです」
 数分が経った頃に返事を返してくれた。
「僕は明日に帰っちゃうけど、大人になったらまた会いに来るよ」
「うん、わかった。約束だよ」
「うん、約束だね」
 彼女はその約束が嬉しかったのか少しだけ涙目になっていた。彼女の手と僕の手を結んで顔を彼女の顔に近づけた。彼女も顔を近づけてきて唇と唇が重なり合った。
 僕の彼女は顔を真っ赤にしながらもはにかんでいた。彼女と過ごした時間は少ないものだったけど人生の中で一番大切なものだった。
 家に帰るときに彼女は見送りに来てくれて僕たちは泣きながら別れを告げた。車の中では泣き疲れて眠っていた。彼女と過ごした夏の思い出は忘れることはないだろう。僕は彼女に会いたくて早く大人にならないかなと思うのだった。