ラブ・オールプレイ

「マッチポイント。トゥエンティオール」
 中学総合体育大会、女子バドミントン・シングルス決勝。七海は主審のコールで、昨年優勝し今大会も優勝候補な相手を追い詰めた実感が湧いていた。
 バドミントンの試合は、一ゲーム二十一点の三ゲームマッチで行われ、先に二ゲーム先取した方が勝ち。一セットずつ取った場合は、ファイナルゲームが行われる。七海達は、そのファイナルゲームのマッチポイントまで試合が進み、点の取り合いをしていた。
「一本!」
 七海のサーブ。緊張を吹き飛ばそうと声を出し、二階の客席から聞こえた「ラスト一本」の声援でラケットに力を込めた。七海は試合中、相手が前後に振られると少し動きが鈍くなることを見つけ、できるだけ後ろに飛ぶようにラケットを振った。
 高く上がったシャトルは相手が構えていた位置より少し後ろまで飛んだ。狙いより飛んでしまったように見えたが、相手はシャトルを見送ることなく、大きく一歩下がって打ち返してきた。
 アウトにならずホッとしたのもつかの間。シャトルは七海の死角に、コートの左後ろに返ってきた。相手は七海がコートの中心にいないのが見え、狙い返してきたのだ。
一人でコートを使うシングルスは、サーブを打ったらすぐコートの中心に戻る必要がある。七海はサーブが入るかどうかを気にして動き出すのが遅れ、中心に戻り切れていなかった。これが七海と優勝候補者との差だった。
準決勝から続けての試合で重くなってきた足をなんとか動かす。右足を踏み込み、相手に背をむけるように体を反転させて低姿勢になる。ラケットを持つ右手を伸ばし、飛距離を伸ばすため手首のスナップを強くした。
体勢は崩されたが、ガットの端に当たったシャトルは相手コートに返った。
相手はネット際のシャトルに対応し、ラケットを七海のコートの地面と平行にして打った。相手が一番得意とするショット、ヘアピン。強打ではないが、反撃されないように技術を要するものだ。
七海はほぼしゃがんでいる状態で、相手も客席の仲間も七海がシャトルに間に合わないと思った。
「七海! 前!」
 コートの後方、記録のためにベンチにいた仲間が声を張った。それとほぼ同時に七海も動き、シャトルと地面の間にラケットを滑り込ませた。
 七海が得意なのは後半戦。部活内で一位二位を争う体力の持ち主で、後半戦に連続で無理な体勢から打ち返すこともできる。だから、会場中がシャトルに間に合わないと思っても、七海はどんな体勢になっても間に合わせる。
 決勝戦、マッチポイント、一瞬の油断。相手は自分を大きく超えて行くシャトルに反応するも、動きは鈍く足が後ろに下がらない。
 相手は前後に振られると少し動きが鈍くなる。七海は完全に下を向いて打ったシャトルを、相手の真後ろに狙っていた。
「トゥエンティワン、トゥエンティ。マッチウォンバイ今野七海」
 主審のコールで試合が終わり、会場から二人に拍手が送られる。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
 目に涙を溜めた相手が、七海に手を差し出す。七海もそれに応えて手を出した。ネット越しの握手に、拍手が大きくなった。