安さには理由がある


 夏の暑い日、俺はあるアパートへ引っ越しをした。立地は悪くなく、最寄り駅までは歩いて十分もかからない。なのに、家賃は三万円と安かったので、俺は内見を済ませただけで住むことを決めた。まさか、変な目に会うことも知らずに……
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「荷物来たけど段ボール開けるのダルいから明日でいいや」
 そう言って、俺は出すだけ出した布団に寝転がり、クーラーが壊れていたので代わりに持ってきた扇風機をつける。今日はそこまで暑くはないが、正直扇風機だけでは心もとなかった。
「なんでクーラー壊れてんだよ……」
 修理は来週辺りだと伝えられたのを思い出し、俺は少し眠ろうと目を瞑る。疲れていたのかすんなり眠れた。
 目を覚まし辺りを見回すと辺りはすっかり暗くなっていた。
「ん、何時だ?」
 スマホの時間を確認すると、二十三時をとっくに過ぎていた。
「結構寝てたなぁ」
 俺は寝た時間が夕方近くなのを思い出し言う。そして、キッチンへと目をやると、そこには、白い着物に身を包んだ、足がない少女がフワフワ浮いていた。
「……!」
 俺は驚きのあまりに言葉を失った。寝ぼけているのかと目をこするが少女は消えない。夢かと思って頬をつねると痛みが走る。
「あ……見たわね……」
 少女はこちらの存在に気づくとそう言った。そして、ゆらゆらと揺れながらこちらに近づいてくる。
「ひっ……!」
 俺は床に手をついたまま後ずさりするがすぐに壁に当たってしまう。少女はだんだんと近づいてくる。俺は近くにあった段ボールの山を崩すが、少女は段ボールを貫通してくる。もうダメだと思った時、
「あ、あの、ここの地縛霊のユキと申します。よろしくお願いしますね」
 と言ってきた。
「……へっ?」
 俺は数秒の間を置いてから言った。
「普通は見えないはずなのですが、あなたにはどうやら私が見えるようですね。なので、こうやって挨拶しようかなって」
 ユキは笑顔で言った。
「ところであなたのお名前は?」
「え、えっと高橋文彦です」
 恐怖で震えながら俺は言う。
「では、文彦様これからよろしくお願いします!」
「えぇえええ!?」
 こうして、俺と幽霊ユキとの奇妙な生活が始まった。